坂口弘

獄吏らの列のあわひに立たされて今より君は死囚と言はる おいそれと牢の届書に我が遺体の引き取り先を記せるものか 試されてありと思はむ交通権剥奪されてつのる苛立ち 前の日に知らせることもなさずしていきなり処刑するは正義か これからは老い深まりし母親を我の処刑に怯えさするか 首に縄をかけらるるその瞬間まで分からぬと思ふ死刑の恐怖 ふたたびをリンチの場面書かむとす恩寵なりと奮ひたつべし 溜まるゆゑ掃除をせねばならぬとぞ塵芥に変わらぬ死囚の命 衝撃は一瞬にしてその後は忘れ去らるる刑死者あはれ 春に次ぐ秋の処刑に取るものも取敢えず母は面会に来り 荒れ狂う処刑の嵐に身を曝ししきりと君に逢いたかりけり ありがたし元被告なる呼称にて我を報じて呉るる新聞 吾のことを元連合赤軍と書きてくれたる人に涙す もし人が団扇にあふぎ呉れたらば涙流れむ人屋の吾は 従軍慰安婦にあらず従軍慰安婦にされし人たちと書き給え君ら 月曜日に執行指揮書は届くらし月曜日の朝はこころ重たし 木曜日に髭を剃りつつ執行はもしや明日かといつも思へる 後ろ手に手錠をされて執行をされる屈辱がたまらなく嫌だ 叶ふなら絞首は否む広場での銃殺刑をむしろ願はむ 大臣の椅子を射止めて堪へきれず笑みたる顔に恐怖す吾は